2010年3月1日月曜日

Newsletter創刊のお知らせ

このたび、スポーツ医学研究センターでは、
Newsletterを創刊いたしました。
ホームページからPDFファイルをダウンロードしてお読みください。

Newsletterはこちらのページからご覧いただけます。

ライフスタイル改善プログラム≪メールマガジン第7号≫

スポーツ医学研究センターでは、ライフスタイル改善プログラム参加者に向けて、メールマガジンを発信しています。
小熊祐子准教授を中心とし、管理栄養士の橋本玲子先生、スポ研スタッフ、大学院生が持ち回りで、運動や食事に関する『健康的に過ごすため』の役立つ情報を配信しています。

プログラム参加者以外の方にもとても有用な情報ですので、
こちらのブログにも転載します。

このメールマガジンは2010年3月に配信されました。


**ライフスタイル改善プログラム≪メールマガジン第7号≫**

                       
 皆さん、こんにちは。小熊先生の指導のもとで太極拳の健康効果についての研究をしている飯田健次です。今日は太極拳にまつわる話をQ&A形式で分かり易くお話したいと思います。


Q. 太極拳の名前の由来は?
A. 「太極」という言葉は中国の古典の一つである「易経」に最初に現れた言葉で、「太極」の本来の意味は「絶対無、物事が極まった状態」をいいますが、そこから「すべからく天地万物の理-動すれば陽が生まれ、動が極まって静となる。静すれば陰が生まれ静が極まれば、また動となる」といった意味で使われています。
太極拳の動きは常に左右のどちらかの足に重心をゆっくりと動かしている(つまり、左右の足が常に陽になったり陰になったりと変化している)ことから、18世紀初頭の清王朝時代に民間の武術家であった王宗岳という人が「太極拳論」という論文を書いたことで、それまで「長拳」とか「軟拳」などと呼ばれていた名前がこの論文以降「太極拳」に統一され確定したと言われています。



Q. 太極拳の歴史は?
A. 太極拳がいつ頃誰によって始められたのかは諸説があってあまり定かではありませんが、歴史上に記述されている最初が17世紀の陳王廷という人が陳式太極拳を創設したというものです。初期のころは健康面と格闘面の双方の作用を備えていたようですが、軍事技術の発展に伴い、格闘面の作用が薄れて健康面に注目されるようになったと言われております。伝統的な太極拳には陳式や楊式など5つの様式がありますが、現在最も一般的に普及しているのは1956年に中華人民共和国体育運動委員会によって制定された簡化24式太極拳です。これは太極拳を全く知らない人でも易しく学べるように健康増進を目的に楊式を簡略化して作られたもので、これ以降世界中に広がったようです。日本には1972年の日中国交正常化前後に伝わったといわれております。






Q. 太極拳は本当に健康に良いか
A. 前述の武術家である王宗岳が『十三勢歌』という本の中で「太極拳の目的は健康を維持して長寿を得るためのものである」と述べており、昔から太極拳が健康に良いという認識は持たれていたようですが、科学的な実験によって証明されたのは最近になってからです。1996年にアメリカのエモリ-大学のウォルフ教授が発表した論文(太極拳によって転倒のリスクが47.5%減少)が大変注目されて、その後世界中で太極拳の研究論文が数多く発表されるようになりました。
 表1は2年前に私が太極拳に関する研究論文を調査してグラフにしたものです。勿論いくつかの研究の中には効果が見られなかったとする研究報告もふくまれておりますが、太極拳の健康効果についての大まかなアイディアがこの表から得られるのではないかと思います。


              表1 太極拳研究のテーマ   





この表でもお分かりのように研究テーマの中で一番多いのが転倒予防効果です。太極拳の転倒予防効果は他の諸々の転倒予防運動と比べても優れているという報告がなされております。太極拳は非常にスローな動きをしながら、常に体の重心を左右どちらかの足に移動させながらの運動するのを特徴としております。つまり、太極拳を行っている間は常に片足立ちを行っていると言えますが、このことは常に不安定な状態にあることを意味いたします。体が不安定な状態にあるため、体内では常にバランスを保とうという働きが作用しており、このことが体のバランス能力を高めることになると思われます。
2番目に多いのが心理的精神的効果についての研究です。太極拳は動きながらの瞑想(動的瞑想)又は、動きながらの禅(動禅)と表現されたり致します。太極拳をすることで活気がでる、ストレス対処能力が高まるなどいろいろな精神的効果が言われております。私も現在、太極拳の精神的効果について研究をしております。結果がまとまりましたら、又次の機会にでもご報告させていただきます。






最後に、最近の話題を一つご紹介致します。アメリカのハーバード大学医学部が発行しているニュースレターの2009年6月号に太極拳に関する記事が掲載されておりました。その中に「太極拳は動きながらの瞑想(動的瞑想)と言われているが、動きながらの治療(動的治療)とも言えるのではないか。武術として中国で始められたこの心身鍛練法は多くの病気の予防や治療に効果があるという研究発表が最近増えてきている」と書かれてありました。20世紀は人も国もスピードを競う時代でしたが、最近はスローライフが注目を集めています。ゆっくりと体をスローに動かしてみては如何ですか。 (文責:慶應義塾大学大学院 健康マネジメント研究科 飯田)